春の朝、三保の松原に住む漁師・白龍は、仲間と釣りに出た折に、松の枝に掛かった美しい衣を見つけます。家宝にするため持ち帰ろうとした白龍に、天女が現れて声をかけ、その羽衣を返して欲しいと頼みます。白龍(はくりょう)は、はじめ聞き入れず返そうとしませんでしたが、「それがないと、天に帰れない。」と悲しむ天女の姿に心を動かされ、天女の舞を見せてもらう代わりに、衣を返すことにします。
羽衣を着た天女は、月宮の様子を表す舞いなどを見せ、さらには春の三保の松原を賛美しながら舞い続け、やがて彼方の富士山へ舞い上がり、霞にまぎれて消えていきました。
昔話でもおなじみの、羽衣伝説をもとにした能です。昔話では、天女は羽衣を隠されてしまい、泣く泣く人間の妻になるのですが、能では、人のいい漁師・白龍は、すぐに返します。
羽衣を返したら、舞を舞わずに帰ってしまうだろう、と言う白龍に、天女は、「いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを」と返します。正直者の白龍は、そんな天女の言葉に感動し、衣を返すのです。
天女の舞はこの能の眼目で、後に東遊(あずまあそび)の駿河舞として受け継がれたという、いわれがあります。世阿弥は、伝書の中で、天女の舞を特別なものと考えていたようで、後の時代には舞の基本とされましたが、今では大きく様式が変わっています。
穏やかな春の海、白砂青松、美しい天女の舞い、そして遠く臨む富士山。演者も観客も、幸せな気分にしてくれる能といえるでしょう。
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