能を観るにあたっては、装束や能面の見事さを鑑賞するのも楽しみのひとつですが、面も装束もつけないで能を演ずる場合があります。直面(ひためん)の演目というわけではなく、紋付袴で演じるもので、「袴能」と呼ばれます。壮麗な能装束を着けて、面をかけて舞う舞台は、ただでさえ汗を相当かきます。その上、高温多湿の日本の夏とあっては、能を舞うには大変つらいものがあります。
本来、夏場は、面、装束を休ませる時期ともなっており、かつてはこの時期に「袴能」がよく演じられたようです。「袴能」は、夏の季語にもなっているくらいです。また袴能では、装束に隠されず、シテの体の動きがよく分かりますので、通常の舞台とは異なる観点から、能を楽しむことができます。