能の舞台の四隅にある柱には、それぞれ名前があります。正面の観客席から見て、右奥から時計回りに「笛柱」「ワキ柱(大臣柱)」「目付柱(角柱:すみばしら)」「シテ柱」と呼びます。中でも左手前の「目付柱」は、観客席からすれば、舞台を遮る存在です。
もともと舞台の上の屋根を支えるために柱は必要ですが、能楽堂の中であれば、相撲の土俵のように屋根を上から吊して柱はなくてもいいのではと考えてしまいます。しかし例えば「目付柱」は、シテが舞う上での目印として必要だと言われるなど、柱にはそれぞれの役目があるものと思われます。実際のところ舞は歩幅や足先の向きで制御し、必ずしも柱を目印にすることはないようですが。
能舞台では、4本の柱で空間を区切ることで、観客に舞台への意識の集中を働きかけつつ、舞台上から四方へ開けていく世界の広がりを強く印象づけます。一見邪魔な「目付柱」は、観客にとって、舞台との緊張感を保つために必要なものなのかもしれません。