昔の日本人は、腰痛が少なかった、と言われます。その理由として、「正座」や「帯を締めたこと」など、日本人伝統の習慣も挙げられます。帯を締めると、自然に背筋が伸びます。これは、帯が骨盤を引き締めて、頭から背骨、腰に至るからだの中心線がしっかりするからです。現在、腰痛の人が用いる腰バンドと同じような役割を帯が果たしているのです。
そして、正座。正座は、江戸時代の武士階級の間から普及した日本独自の座り方ですが、お尻が足の上に収まるので、頭部から背骨を貫く体の線が一直線になり、自然に姿勢がよくなります。試しに、椅子に座ったときの悪い姿勢(のけぞりや前かがみなど)を、正座でやってみてください。かえって苦しくなるでしょう。姿勢が伸びた状態は、腰への負担が少なく、丹田を意識しやすくなり、無理なく腹に力が入ります。
昔の中国では、健康の基本を「上虚下実」といいました。「上」は頭、「下」は下腹(丹田)、「虚」は空、「実」は満ちること。頭は休め、下腹に気を満たす生活が元気で長生きのもと、ということでしょう。帯を締め、正座を習慣としたかつての日本人は、自然に腰をいたわる健康法を実践していました。
お能でも、着物を着て帯を締め、謡を謡うときには、正座が基本です。謡の発声は腹から声を出しますが、正座をすると、自然と腹が据わり、発声しやすくなる、という経験をお持ちの方も多いでしょう。お能は「腰痛に効く」といえます。