能はとても簡素な舞台で演じられ、歌舞伎のような背景を描いた「書割(かきわり)」や建物のセットを組んだ「屋台」などはありません。けれども演出上必要な最低限の物が登場します。一般の演劇でいえば小道具と呼ばれる物ですが、能では「小道具」「作り物」の2種類に分類されているのが特徴です。
「小道具」は能面や装束と同じように、あらかじめ作られたものが保存され、必要に応じて使われる道具です。扇や羽団扇(はうちわ)、太刀や鎌、法具や楽器類など。登場人物の設定に準じた物が多く、演者が身につける「帯道具」と手に持つ「持ち道具」などがあります。
「作り物」は、上演のたびに手作りされるもので、舞台が終わると解体されるのが特徴です。かつては「作り物師」という専門の職人がいましたが、現在はシテ方が作ります。大きなものでは「野宮」の鳥居や「熊野」の物見車、「道成寺」の鐘などです。小さなものでは、細竹を切って作る杖や竿など。枯れ枝をたばねて真ん中を白い布で巻いた負柴(おいしば)も含まれます。