江戸時代、庶民の間には、小謡(謡の聴きどころのみをまとめた短い謡)が広まっていました。というのも、庶民の子どもが通っていた寺子屋では、主に男子を対象ではありましたが、小謡も教えており、幼い頃から慣れ親しんだものであったことも影響しているようです。
寺子屋の教育の中心となるのは、実用的な「手習い(読み、書き)、算盤」でしたが、単に「文字の読み方を習い、書く」にとどまらず、手本を読んで、さまざまな知識を身につけさせることも考えられていたようです。その点、謡は歴史的な出来事や、和歌、道徳などが物語の中にふんだんに語られているので、格好の教材とされたのでしょう。
法政大学能楽研究所に所蔵されている、「歌麿筆寺子屋小謡図版画」には、大きな口を開けて謡の稽古をする子どもたちの、微笑ましい様子が描かれています。