能は、基本的に8拍子のリズムを刻みます。しかしその流れは一定ではありません。囃子方のかけ声、地謡の間合い、シテ方の謡と足取りが、場面ごとのリズムの流れを左右します。同じ楽譜で指揮者の指示によりタイミングを図るわけでもなく、また演出家がいて、舞台展開の予定が組まれているわけでもないのに、異なる表現方法が渾然一体となって一つひとつの場面を構成します。その実現のためには、舞台の上にいるすべての出演者が、自分以外の表現について知っておく必要があります。
シテ方であっても囃子を知り、囃子方であっても謡や舞を知る。そのためにそれぞれの役柄の演者たちは、自身の稽古だけでなく、他の役割についても稽古を重ねています。