能の大成者として知られる
当時、能は猿楽と呼ばれ、近畿一帯に「○○猿楽」というローカル芸能がいくつも根付いていました。観阿弥と世阿弥は「大和猿楽」の出身ですが、「近江猿楽」では犬王(
犬王は天女舞を得意とする優美な芸風で、かの世阿弥も「犬王は花なり」と賞賛。観阿弥亡き後は、能の第一人者として時の将軍義満から寵をうけるほどでした。
観阿弥や世阿弥の流れをくむ観世流をはじめ、現存する5流はすべて大和猿楽の系統で、近江猿楽や摂津猿楽、伊勢猿楽などは、地域の伝統行事として伝えられるほかは、ほぼ途絶えてしまいましたが、大和猿楽の特徴は形態模写。そして現在多くの人が能に対して抱く幽玄、優美といった印象は、田楽だけでなく、むしろ近江猿楽の得意分野でもあったようです。
観阿弥や世阿弥は自らの芸を作り上げる過程で、犬王ら同時代のライバルの芸風を積極的に取り入れたのです。近江猿楽の精神は今も息づいているといえるでしょう。