能の扇には、主に能を演じるときにシテ方やワキ方が持つ「中啓(ちゅうけい)」と、仕舞や、地謡方、囃子方、後見方が使う「鎮扇(しずめおうぎ)」の2種類がありますが、仕舞や素謡などに使う鎮扇には、シテ方の流儀によって文様や作りが決まっています。
観世流では、三段の水巻の文様、いわゆる「観世水」が描かれているのが特徴です。扇骨の顔(要の部分)も丸みを帯びてふっくらとし、両端の親骨には三つ彫りが入っています。宝生流は、「宝生五雲」という5つの雲が描かれた文様で、緘尻(どじり 扇の緘じてある方の先端)が丸く内側に巻いてあります。
一方、「舞金剛」とも言われる金剛流は、「金剛雲」や「九曜星」という華やかな柄が特徴で、緘尻も角が外に張り出し、いかめしい形となっています。金春流は、白地に5つの丸紋が描かれた「五星」で扇骨はまっすぐな自然の形。喜多流は3つの雲が描かれた「三雲」で、扇の顔の断面が丸く、かまぼこ形をしています。
お稽古用には概ね白地に一色の模様を描いたものが一般的に使われ、舞台用には金地、銀地が引いて色柄を載せたり、色地に金、銀で抜いたりさまざまな工夫が施されたものを使います。
紋付、袴姿で舞う仕舞や舞囃子は華やかな装束はありませんが、ワンポイントとなる扇に注目するのも一興です。