能の舞台には、現実の人間ばかりではなく、それ以外のさまざまな存在が登場します。動物の化身、亡霊や鬼、植物の化身など、超自然的な存在や霊的な力をもつものも多く登場します。「動物」といっても「鵺(ぬえ)」のように、顔は猿で、手足は虎、尻尾が蛇という想像上の怪獣もいます。狂言では、狐は狐、猿は猿の面をつけて登場しますが、能の場合は面や装束の文様を通じてそのイメージを象徴的に表現し、人ではない何かがもつ存在感を特徴づけるのです。
たとえば「小鍛冶」に出てくる稲荷神社の狐の場合は、面の上に狐の立テ物(冠)をつけ、装束にも工夫がなされています。このようにして実在の狐とは異なる、霊狐の存在感を表します。狐であったり鬼であったりする登場人物の姿に秘められた意味を読み解く見方も能楽ならではの鑑賞法です。