能や狂言の演者や謡、鼓の掛け声などは、非常に大きな声が特徴です。大きな声を出すには「腹から声をだせ」とよく言われます。この「腹」とは、気功や東洋医学などで臍下三寸にあるとされる「丹田」を指します(この場合の1寸は身長や指の大きさから割り出す相対的なサイズです)。
では、なぜ丹田から声を出すと、大きな声になるのでしょうか。
丹田からの発声では、筋肉が瞬時に非常に大きな力を発揮することが分かっています。これは、肋骨の内側の「横隔膜」とともに、骨盤底にある「骨盤隔膜」もが振動し、さらにこのふたつをつなぐ大腰筋をはじめとする深層筋が活性化される、いうメカニズムが働くからです。これが健康によい効果をもたらします。
また医療・治療の分野では、謡の発声の仕方が、リハビリテーションにも有用ではないかと着目する研究者もいます。
一方、大きな声は、私たちが無意識に「心」に掛けているブレーキをはずす、ともいわれます。運動選手がプレー中に大きな掛け声を出すのは、普段以上の力を出せると無意識に感じているのでしょうか。丹田からの発声は、自己を解放してストレスを発散し、心の健康を保つのにも効果がありそうです。