イギリスの作曲家、ベンジャミン・ブリテンは、1956年に来日した折、能「隅田川」を観て非常に感銘を受け、帰国後、「隅田川」をもとにしたオペラ「カーリュー・リバー"Curlew River"」を作曲しました(初演1964年)。 「カーリュー」とはシギ科の鳥、ダイシャクシギのことで、 隅田川の謡にある「都鳥」を意識したものです。
オペラは、中世ヨーロッパの修道院を舞台とし、教会で修道士たちが、子どもを失った狂女についての物語を演じる劇中劇となっています。物語の展開はほぼ能と同じです。渡し守と旅人の役をバリトンが、狂女の役をテノールが、少年の亡霊役をボーイソプラノが、それぞれ歌います。能の地謡に対置される修道士の合唱は、各役の人物と違った旋律を歌ったり、物語の流れを説明したりと、さながらギリシャ悲劇のコロスの役割を果たします。
オペラと能の大きな違いは最終場面です。能が、子どもの亡霊を追う母の悲嘆を表し、荒涼たる印象を残して終わるのに対し、キリスト教を背景とするオペラでは、子どもの亡霊が天国での再会を約束し、母は救われる、という結末になっています。