屋外で行われる薪能は、能楽堂は敷居が高いと感じる人びとにも、気軽なイベント感覚で参加できるからか、大変人気があります。明るい室内照明のもとで、絢をなす装束や仕舞いや所作の細部を観ることもよい能の楽しみ方ですが、揺らぐ灯りの中での観能もまた格別です。見えない部分に何かが見える感覚が生まれます。薪能に連なる舞台づくりで、近年、屋内の能舞台での「蝋燭(ろうそく)能」が採用されるようになってきました。かつてろうそくが屋内の照明だった時代、多くの能舞台では、このわずかな灯りをたよりに演じられてもきました。昔日の面影が、幽玄を一層濃く感じさせるような効果をもたらす、新しい演出手段としてよみがえったのです。
舞台の周囲にいくつも置かれたろうそくの、揺らぐ灯りの中で目を凝らすと、金糸銀糸の輝きや能面の表情も、際立って目に留まるもの。演者の動きも闇の中に浮かぶかのような、印象を与えます。本物のろうそくを使わずに、灯りが揺らいで見える電球を紙でおおい、ろうそく同様の暖かみのある灯りを作って行われる舞台もあります。「何かを減らす」ことで、本来の魅力が濃く現れることの一例です。