能には、扇を使ってさまざまな意味を表現する「型」がいくつもあります。
「カザシ扇」は、右手で扇の要の部分を持ち、高くかざす型ですが、これは遠くを見晴るかす所作です。開いた扇を左の肩に添え、斜め右を見上げるのは「月ノ扇」。広げた扇の片方の親骨(両端の太い骨)の地紙の部分を左手で持ち、それを右の肩に当ててから大きく前にはね返すのが「ハネ扇」。これは物が揺れ動く様を表し、強く表現すると矢を放つ意味となり、柔らかく行えば天女の衣がたなびく様ともなります。「ユウケン」は、扇を上へ大きくはねあげる所作で、晴れ晴れとした気持ちを表現しています。
扇は、あるときは演者の心情を細やかに表し、またあるときは杯や筆といった「物」や、風、波といった「自然の様子」などを、幅広く描写する役割を担います。扇の動きが何を表すのかに思いを馳せて能を観ると、能の描き出す世界により深く入っていけます。