「土蜘蛛」では土蜘蛛の精が使う糸や巣が出てきます。大きなものではまず、後場に出される作り物の「土蜘蛛の塚」。大きな蜘蛛の巣が張られ、後シテはこれを破って恐ろしい姿を現します。この巣は紙テープを、文字通り蜘蛛の巣状に張って作りますが、あまり細かな巣にしてしまうと、シテが出てくるのに苦労します。畳一畳ほどもある大きな作り物は、作ったり、運んだりするのにも手間がかかりますが、壊されるのは一瞬です。
また、土蜘蛛の精魂であるシテは、前場では頼光に、後場では独武者や武士たちに蜘蛛の糸を投げかけます。これは和紙で作られ、中心になまりの針金を重りとして巻いた物を細く切り、束ねています。「蜘蛛の巣」とも「なまり玉」とも呼びます。長さは3間(約5.5メートル)、5間(約9メートル)のものがあります。シテが投げると能舞台に糸がぱっと広がり、迫力あるシーンが生み出されます。能舞台の広さに見合うものとして3間のものが使われる場合が多く、舞台を飛び出すほどに広がる5間のものをうまく投げるのは難しいとされます。この投げる「蜘蛛の巣」は、手作りで一日に数個ほど作ることができます。