一定数の観客を収容できるものに限ると、現在日本には約80の能舞台が存在します。それぞれ個性がありますが、四方を海に囲まれた広島・厳島神社の能舞台は必見。満潮時には舞台が海に浮かんでいるかのような光景に出会えます。江戸城本丸にあったとされる舞台に似て、橋掛かりの角度が急なのも特徴のひとつ。そのため笛方から橋掛かりの方向が見えにくく、ワキの登場とタイミングを合わせる「名乗り笛」は勘を頼りに吹き出すこともあるようです。また、こんな逸話もあります。正確な足運びで知られた宇髙喜太夫という能役者がいました。ある時、舞台改修にあたった大工がシテ柱を太くしてしまったために足をぶつけ、以来このシテ柱は“喜太夫柱”と呼ばれるようになったとか。
近畿にも能舞台が集中しています。城郭内に現存する彦根城能舞台、日本最古の京都・西本願寺の北能舞台(原則非公開)、そして金剛流の本拠地である金剛能楽堂など。金剛能楽堂は2003年に京都・室町から烏丸一条に移転した新しい施設ですが、橋掛かり壁面の青海波模様をはじめ、御簾や障子などに旧・金剛能舞台から引き継いだ禁裏能の面影を残しています。