能の曲には、小鼓・大鼓・笛のみで演奏される「大小物」と、太鼓が加わる「太鼓物」とがあります。「太鼓物」の曲であっても、全体を通じて太鼓の演奏が行なわれることはありません。舞台のクライマックス、謡を中心とした舞と囃子の演奏を華やかに盛り上げるのが太鼓の役目です。
能の囃子方は、シテ同様に舞台に立つ存在。演奏をしない時は休憩しているわけではありません。太鼓方も舞台の最初から出番の来る後半まで、美しく座り続けることに注意を払っています。小鼓方、大鼓方が演奏中は床几に腰掛けているのとは違い、太鼓型は舞台に直接正座をしつづけます。じっと前を見据え、耳を凝らしながら無言で囃子に参加しているのです。