能の扇、「中啓(ちゅうけい)」には、華やかな絵柄が施されていますが、この絵柄には曲目や役柄に応じた決まりがあります。代表的なのが、二番目物(修羅物)で使われる「修羅扇」で、「勝修羅扇」「負修羅扇」の区別があります。「勝修羅扇」は「松に日の出」の絵柄で、勝ち戦の武将を題材とした「屋島(八島)」「田村」「箙」で使われます。「負修羅扇」は、源平の戦で敗れた平家の公達の役で使われるもので、「波に入り日」の絵柄です。
三番目物(鬘物)で使われるのは「鬘扇」で、若い女性で、装束に紅色が入っているときは扇にも紅が入る 「紅入(いろいり)」、役が年配者で装束に紅がはいっていないときは「紅無(いろなし)」となります。
四番目物では、中年の女性が子どもや夫を探す狂女物の「狂女扇」に、女性の年齢に合わせて紺系の色が使われ、「道成寺」「葵上」などでは鬼神が好むと言われる牡丹が描かれている「鬼扇」が使われます。神能(初番目物)には、扇の上両端に紅が入る「妻紅(つまべに)」が決まりです。
ただし、決まりは基本で、その日の番組や装束に応じて替えの柄がつかわれることも多々あります。