素人が能を習う場合には、謡と仕舞の稽古から入るのが一般的。特に謡の稽古は一曲の内容を表現するものとして重視され、謡だけを稽古する人も数多くいます。また囃子も謡と合わせて演奏するので、笛や鼓を学ぶにも、一通り謡を習い覚える必要があります。謡の稽古は、覚えやすい曲から一曲ずつ習い、さまざまな謡い方を身につけていく形式で進みます。
入門して最初に習う謡のひとつに「鶴亀」があります。鶴亀は、新年を迎えた古代中国の宮殿を舞台に、皇帝の長寿を願って鶴と亀が舞うというめでたい内容で、謡にすると非常に短い曲。謡の基本を一通り学べます。
「羽衣」も、初心者向けの謡のひとつです。羽衣のクライマックスは「羽衣を先に返したら、舞を見せずに天上に帰ってしまうのでは」と疑うワキの漁師に対し、シテの天女が「それ疑いは人間にあり。天に偽りなきものを」と告げる場面。漁師と天女を演じ分ける表現力も問われます。
このほか、若武者の亡霊が主人公の「経正(経政)」、弁慶と義経の出会いが描かれる「橋弁慶」、化け物退治の「土蜘蛛(土蜘)」ほか、「竹生島」「田村」「胡蝶」「小袖曽我」「紅葉狩」「猩々」などが初心者にも謡いやすい曲です。