「道成寺」の乱拍子では、シテと小鼓だけの緊迫した舞台が繰り広げられます。鼓の打音とかけ声、足先やかかとを上げ下げするシテとの間合い。シテと小鼓の息づかいが、舞台に緊張感を満たします。ふたりで作る舞台を際立たせるためか、乱拍子の時、小鼓方は座り直してシテと向かい合うようになります。
能楽では、同じ舞台の上にありながら、シテと囃子方が、はっきりわかるように直接関わることがほとんどありません。ですから「道成寺」の乱拍子で見られるこのシーンは、きわめて特殊です。シテの動きは気の遠くなるほどゆったり静かに始まり、その流れが十数分も続きます。その微かな動作に集中すると、小鼓の間合いとの緊迫したせめぎ合いが見られ、おもしろさもひとしおです。