見所から見て、能舞台の揚げ幕の左手には格子のついた櫺子(れんじ)窓があります。「物見窓」「奉行窓」「嵐(あらし)窓」とも呼ばれ、鏡の間から能舞台や見所を見渡すことのできる窓です。
内側にすだれを垂らしてあり、見所の観客からは、その先が見えないようになっています。能楽師は、開演前にこの嵐窓から見所をうかがい、どのような観客が集まっているのか、全体の雰囲気を確かめて舞台に臨むといいます。嵐窓を介して観客のざわめきや開演を待つ緊張感の高まりなどを見極めるわけですから、最初に観られているのは観客の方かもしれません。「嵐窓」と呼ばれる由来は、はっきりとしていませんが、そうした観客のざわめきを嵐のように感じるから、と解く能楽師もいます。
また時に応じて、名手の芸に秘かに接したり、師匠が弟子の動きを観察したりする場合もあります。一見して見るのに不自由なこの窓を介して、能楽師たちのさまざまな思いが交錯しているのです。