声明とは「しょうみょう」と読み、仏教の法要で僧侶が経文を唱える声楽一般のことです。仏教の日本への伝来は、飛鳥・奈良時代。以来、この声明が声楽として日本の音楽・芸術に影響を与えたと考えられています。能楽の謡にもその名残りのあることを指摘する研究もあります。
能の演目には、僧侶が登場し、経文を読む場面もありますが、声明を唱えることはありません。しかし、たとえばワキが登場するときの「次第(しだい)」と呼ばれる囃子や、役者と地謡が交互に謡い交わす「ロンギ」の名称や謡い交わし方が、声明の「次第を取る」「論議」に由来していると考えられています。そういった部分が、類縁を指摘されるところです。
伴奏を伴わない独唱、斉唱は、自然と深い音色を奏で、聴く者を知らず知らずに引きつけます。謡も声明も、人の声で、現実とは異なる世界に人びとを誘う音楽の力をもっているのです。