能の舞台の周辺は、幅一間ほどの玉石を引いた白州となっています。これは能舞台を別棟の観客席から観ていたころの名残です。舞台正面中央には、この白州にかけおろした階段が設けられ、「キザハシ(階)」と呼ばれています。「キザハシ」とはもともと「階段」のことを意味します。キザハシは、万が一、演者が舞台から落下した場合にここから上がることになりますが、そのための非常階段として設けられているわけではありません。
江戸時代、将軍が観るような公式な舞台は寺社奉行が主催者を務めました。式三番が始まる前に、寺社奉行がキザハシから舞台に上がり、橋がかりの前で膝をつき、揚げ幕に向かって演能の開始を命じました。現在では階段としては、ほとんど使われることのないキザハシですが、面をつけた演者にとっては、舞台上から見えるキザハシの左右両端が舞台正面の位置を見極める目安となっています。