東洋に古くから伝わる考え方のひとつに、陰陽道(陰陽思想)があります。すべての事象を、「陽」(プラス)と「陰」(マイナス)に分け、その和合(バランス)が大切だと説きます。能でも、舞の型や謡の構造を含め、さまざまなところに、この陰陽の考え方がみられます。
例えば、楽器の「鼓」もそうです。大鼓は、準備の段階で、炭火で皮を乾燥させることにより、打てば「カーン」という高く張った音が出ます。これは「陽」の楽器とみなされます。一方、小鼓は皮を湿らせて使うことで、「ポ」「プ」「チ」「タ」という奥行きのある音を出し、「陰」の楽器と見なされます。打つ拍子も、大鼓は「陽」を意味する奇数拍を主に受けもち、小鼓は「陰」とされる偶数拍を受け持ちます。
世阿弥は「風姿花伝」の中で、「陰陽の和合が、すべての成就のもと」と説いています。陰陽をポイントに、能を鑑賞するのも一興です。