能舞台の左手奥に座っている後見には、舞台上で全体に目配りすることにとどまらない、幅広い役割があります。開演に先立っては、鏡の間で装束を調え、着付けやもろもろの支度を手伝い、シテ方と舞台の手順を打ち合わせるなどして、能が円滑に進むよう入念に準備を行います。その際にシテが顔に当てた面の紐を結び、加減を確かめることも大切な作業です。準備が整うと後見は、お調べを終えた囃子方に合図を出し、その後に囃子方は幕を出て舞台へ進み出ます。
揚げ幕の竿を上げた後、主後見は、シテ方の最終チェックと見送りをすると舞台裏を移動します。シテ方が本舞台に立つ頃を見計らって、切戸口から舞台に現れて、後見座に着きます。
中入でシテが幕に引っ込む能の場合は、後見は、中入の間にシテ装束の着替えを手際よく、速やかに行い、再び後半の舞台につきます。そして一曲の終盤には切戸口より真っ先に舞台を離れ、揚幕の後方でシテ方を出迎えるのです。