能の面は、基本的なものだけで60種類はあると言われます。そのなかで女面は、能が写真で紹介される際、目にする機会も多いのではないでしょうか。見る側が感情移入することで、悲しみや喜び、憂いや感情の起伏を、いっそう感じさせるその表情。
そんな女面には、ある造形上の技巧が施されています。それは目の穴の形。老体や執心の強いものなど一部を除き、女面の目の穴は、丸ではなく、概ね四角に開けられています。特に若い女を表す面になるほどはっきりとした四角になります。
瞳の中の四角い穴が、外から見ると焦点がぼやけ、淡く丸まったまなざしに見え、とらえどころのない、それ故に観客が感情移入しやすい表情を生み出すのでしょうか。小さなふたつの四角い穴が、不思議にも観客の心をとらえてゆさぶるのです。年齢が上がるにつれて丸みを帯び、中年女性の面では楕円に近くなり、年輪を感じさせるなど別の効果を表します。
能に隠された技巧の演出効果は、大げさではない分、知らず知らずのうちに観客を引き込む、緻密さ、奥深さがあります。