能舞台の左奥に座っている後見方。観察していると、シテの装束を整えたり、小道具を動かしたり、舞台のサポートをする姿が目につくでしょう。歌舞伎の黒子のようだと思われるかもしれませんが、その役割の重みはずいぶん違います。黒子は出演者の介添えや舞台装置の操作など舞台上の細かな実作業を行うのが役目ですが、能の後見は、より高いレベルから舞台全体を監督する役割を担っています。いわば、演者が最高の舞台を全うできるよう見守っているのです。
そのため通常2名の後見のうち、ひとりは演者と同等かそれ以上の力量をもつ人材が入ります。重要な役目ではありますが、目立つことは極力避けます。あくまでも縁の下の力持ちというかたちを崩しません。シテの持ち物を取り替える時でも、動作は最小限におさえて作業をしなければなりません。
万が一、シテ方が舞台を続けられない場合には、通常、後見が代役を務めることになっています。またシテやツレが謡を忘れて絶句した場合にもその手助けをそっと行います。ただジッと座っているように見えて、後見は五感を研ぎ澄まして、舞台全体に目を配っているのです。